
アリとキリギリスとその他の教訓
夏。
アリたちが列をなし、せっせと食料を巣へと運ぶのを横目に、キリギリスはポロリとギターを爪弾いた。
「おい、キリギリス。お前遊びほうけとって大丈夫なんか?」
「何がだい。」
「食いもんのことさ。今に冬になって寒さんなか飢えることになっちまうぞ。」
「おいおい。大丈夫さ。俺はデラシネ。流離いの身さ。それに冬になるまでには寿命で死んじまうだろう。」
「そんなこといって。わしらは知らんぞ。」
「ははは。心配ありがとよ。礼に一曲歌ってやるよ。」
キリギリスはギターを鳴らし情熱的なフラメンコを歌った。
アリたちは「やれやれ」といいながらも、皆一様に笑顔だった。
翌日。キリギリスはアリの巣の前で震えていた。
「ばかげてる。まったくばかげてる。」
巣の中にはピクリとも動かないアリたちの姿があった。
アリたちがせっせと巣に運んでいたのは、人間たちが仕掛けたわなだったのだ。
そしてアリたちがマジメに働けば働くほど、人間の撒いた毒入りの餌はアリたちの体を蝕んでいた。
「ばかげてる。まったくばかげてる。」
キリギリスはアリの巣の前で「ギーチョン」と鳴いた。
そして鎮魂歌を奏でた。
世の不条理に濡れた、悲しみのブルースだった。
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