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Step on Feet



「つまり世の中とはこういう構造になっているんだ」
 彼はグラスを揺らしながら、諭すように言った。
「田中さんが自分の足を踏まれたと文句を言っている。しかし田中さんはこう言いながら、自分が佐藤さんの足を踏んでいることに気づいていないんだ。それで佐藤さんは佐藤さんで、足を踏まれたと文句を言っているが、そう言いながらも藤井さんの足を踏んでいる。 そして藤井さんは自分が足を踏まれているという窮状を訴えているものの山崎さんの足を踏みつけ、山崎さんは足を踏まれたと嘆きながら俺の足を踏んでいるんだ」
 彼は一呼吸おいた。
「ここで重要となるのが、皆一様に自分が足を踏まれたことについては文句を言っているのだが、自分が足を踏んでいるということには気づきもしない、屁とも思っていないということなんだ。馬鹿らしいよなあ。しかしこれが、この世界というもののあり方なのさ」
 彼はにやりと笑った。酒と一緒に自身に酩酊していた。

 やれやれと思いながら、僕はふと、彼に踏まれていない方の足を見た。
 すると意外にも僕の足の下には誰かの足があって、足を辿ると迷惑そうな顔をした田中さんがいた。


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