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痴漢男



 人でごった返す満員電車の中、女が悲鳴をあげた。
「ち、ちかん!この人、ちかんです!」
 女に腕をつかまれた男はニヤニヤと笑った。
「いやいやお嬢さん。嘘をいってもらっては困るなあ。冤罪もいいところだ」
 女は顔を真っ赤にして叫んだ。
「でも、あんた、触ったじゃない!触ったじゃないのよ!」
 電車内にはやれやれといった空気が流れた。
「あのねえお嬢さん。じゃあ証拠を見せなさいよ、証拠を。証拠もないのにそんなこと言われたんでは、おちおち電車にも乗っていられないよ。まったく」
 男はいやらしい目で女をじろじろと眺め、女は絶望的な様子で肩を落とした。

 しかしここに英雄がいた。
 彼は気の小さな男だったが、この哀れな女のために、ありったけの勇気を振り絞ったのだ。

「し、証拠なら、あるぞ!!」
 電車内の空気が大きく揺れた。
「あるぞ!証拠なら!」
 男はギクリとした表情で、女はぱっと明るい表情で彼を見た。
「ほ、ほう。ならねえ君、見せてみたまえよ。その証拠とやらをさあ」

 すると英雄の彼は、かばんの底からおもむろにカメラを取り出した。
「し、証拠ならこれだ!ぼ、ぼかぁ全部撮ってたんだからな!」

 この日、二人の男が逮捕された。


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