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全日本フィギ便



「さあ今年もやってまいりました!便器上の技術と美しさを競う、全日本フィギュア便所選手権。解説はお馴染みの便運珍さんです」
「便です、どうも」
「さて便さん、始まりましたね、全日本フィギ便。今年は4人の選手が出場することになっておりますが」
「いやぁ、楽しみですね」
「個人的に期待されている選手などいらっしゃいますか?」
「そうですねえ。特に誰、というわけではありませんが、昨年はウォシュレットの水圧で宿便を引っ張り出すという荒業を見せた太田選手が優勝でしたから、今年は力より技術、その点に注目したいですね」
「なるほど」
「お、そろそろ始まりますね」
「そ、の、ようですね。はい、そのようです。では早速選手の演技をご覧いただきましょう」
「はい」


「まずは一人目の選手です」
「はい」
「冷静に着座の体勢に入りました。ズボンを下ろして…入りだしは特に問題なさそうですが…おや?」
「脱ぎましたね」
「ええ、脱いでしまいましたねぇ。完全にズボンを脱いでしまいました」
「なるほど」
「便さん、つまり導入から技を盛り込んできたわけですねぇ」
「ええ、これはケンタウロスですね。わりとスタンダードな技です。洋式の場合、通常ならば便座に腰掛けた状態でひざ下あたりまでズボンを下ろすものですが、その状態だとズボンが床につきかねないと不安を覚える、あるいは両足が縛られた状態では『出ない』という選手のために考案された技です。その見た目から古代神話のケンタウルスになぞらえてこう呼ばれています」
「な、る、ほ、どぉ…。おや、あれは?」
「これは、驚きましたね」
「ええ、驚きました。上まで脱ぎ始めましたが…」
「こうくるとはねぇ」
「はい、全裸ですね。全裸になりました。解説の便さん」
「ゼンラウスルです。まさかゼンラウスルだとは思いもしませんでした」
「な、る、ほ、どぉ」
「私も長年解説をやっておりますが、幻と謳われるゼンラウスルを見たのは初めてです」
「驚きの大技を見ることができました」
「そうですね。今年は彼に決まりでしょう」


「さて、次は二人目の選手の演技です」
「はい」
「おや、着座の体勢に入る前から何かやっていますねぇ」
「はい。なんでしょうね」
「ん?トイレットペーパーを、手に取ってますが」
「なるほど、便座を拭くんですね。清潔感追求タイプの演技というわけです」
「そうですか。いやしかし、なかなか着座体勢に入りませんね。どういうわけでしょうか?」
「あ、あれはまさか…」
「なにやらトイレットペーパーを水面に敷き詰めているようですが、便さん」
「やはりそうだ。これは氷上の肥溜めです」
「なんですって?」
「氷上の肥溜めです。この技は、清潔さを追求するあまり便座を拭くだけでは飽き足らず、水面一面にトイレットペーパーを敷き詰めてその跳ね返り水までも予防してしまったという、清潔感追求タイプ至高の技なのです」
「な、る、ほ、どぉ。いや私はむしろ作者がいい例えを思いつかなかったとしか思えないネーミングのほうに驚きを隠せないわけですが」
「いやぁ、美しい」
「なるほどぉ、美しいですかぁ」
「こんな技を出されては他の選手の出る幕はありません。今年は彼が優勝するでしょう」


「さあ、三人目の選手ですが」
「はい」
「おや?早速ズボンを脱いでしまいましたね。これは先ほど解説されていた、ケンタウルスでしょうか」
「いまさらケンタウルスでは期待できないなぁ」
「いや、し、か、し、なかなか着座体勢に入りません」
「なんでしょうね」
「おや?便器の上に立ちました」
「こ、これは…」
「おっとぉ、そして便座にぃ、座ったぁ!」
「あれは!ジャパニーズ・スピンだ!」
「なんですか、便さん?」
「ジャパニーズ・スピンですよ!」
「詳しく解説をお願いできますでしょうか?」
「つまり洋式便所を使ってもなお、あくまでも和式スタイルを貫き通すという、いわば洋式便器への反逆ともいうべき伝説の大技なんです」
「なるほど、それで彼は便器の上でいわゆるウンチングスタイルをしているわけですか」
「そうです。もはや清潔感云々の理由を超越した、日本人としての誇り、そう、誇りを具現化したっ、はっ、くっ」
「おっとぉ!便さんが泣いています!」
「す、すみません。思わず感極まって…」
「そうですかぁ。」
「はい。今年は十中八九彼が優勝です」


「さて、便さん、いよいよ最後の選手の演技です」
「まあ今年はつわもの揃いですから厳しいでしょうけど、頑張って欲しいですね」
「おっと早速ですが、解説の便さん、あれは…?」
「なんでしょうかね?」
「おや?」
「げげ!」
「なんと!」
「うわ、まさか…」
「な、なんてことを…」
「えぇ!それを、まさか?」
「いや、それは…」
「え、うそ」
「ちょっとまっ」
「うげー!!」


おまるを卒業して以来、我々が人から排便行為を観察される機会は極めて少ない。
さらに日々繰り返される営みゆえに、その手法は暗々裏に先鋭化され、その結果各個人間でかなり細分化されているはずだ。
つまり、我々は知らず知らず、とんでもない独自のスタイルをあみだしてしまっている可能性があるのだ。

そこで問いたい。
果たして、あなたの排便のスタイルは「普通」だろうか。

え、僕ですか?
いやだな、僕は普通ですよ。
みんながやるみたいにああやって、ね。
ええ、いたって普通ですとも。

おっほっほ。
おっほっほっほっほっほ。


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