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男の料理



珍しく夫が料理をすると言い出した。
もっともわたしと一緒になるまで長い間一人暮らしをしていた人だから、料理は苦手ではないのだ。

「まずはスープを作ります」
と夫は調子よさ気にいっている。
「水を適量に醤油とだしとみりんを適量」
それでは全部目分量じゃないかと思ったけど、そこはご愛嬌。
「野菜から水気がでるからスープは濃い目に作っておくのがコツだ」
などと言いながら、ご機嫌な夫だ。
「そこに細切にしたにんにくを大量に入れて十分に煮立てる」
夫は一人暮らし時代の得意料理を作ってくれるのだという。
「そしてスープが十分煮立ったら、そこに適当な大きさに切ったきのことモツと大量のキャベツを入れます」
確かに部屋にはにんにくと醤油と野菜のおいしそうな匂いが充満してきた。
「さらにひと煮立ちしたところへ、ふたをするように大量のニラを投入」
そしてさらに5分ほど待ってから、夫は得意げに宣言した。
「さあできたぞ。俺特製のモツ鍋だ」

全て「適量」の味付けのわりに、確かに夫の料理はおいしかった。
料理本を参考にしたのでは出すことのできない、大胆な味わいがあった。
夫はしきりにおいしがるわたしを見て、有頂天になっている。

「見たか。これが男の料理っちゅうもんだ」
わざわざ気分を害するようなことを言う必要もないので、素直になるほどねぇと答えておいた。

しかしわたしが夫のこの言葉に心から納得したのは、食後のことだった。
食後、ほったらかしにされた大量の洗い物を前に、わたしはつくづく、なるほどねぇと思うのだ。


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