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男たちの悲劇



見覚えのある女の子が俺に向かって手を振っている。
ほくっとした笑顔だ。

あの子はたしか、2年前に行った学部のコンパで、俺の横の横の横の席の向かいの横の横に座っていた子だ。

たしか出身は山口で、たしかサークルはテニスで、たしか3丁目のマンションに住んでるっていってたっけ。
ついでにいっておくと、たしか血液型はA型で、たしか誕生日は4月だったはずだ。
それじゃあマメで面倒見がいいタイプだね、なんて話をしてたもんな。
あっちほうの席で。

ああ、あの子の笑顔。
2年も前のコンパで出会ったっきりで、しかもあれだけ席が離れていて、さらに一言も会話をしていない俺のことを覚えていたんだ。
きっとずっと俺のことが気になってたんだろうな。
だって時々目が合ってたもの。

そうだ、そろそろお昼時だし、一つランチにでも誘ってみるか。
まああの子がお腹すいてるなら、の話だけどな。
その辺、こっちの都合だけで物を考えるのは早計というもの。
それがモテる男の流儀だ。ははは。

「あの、もし…」

そんな折、俺は脇を人影がすり抜けていくのを見逃さなかった。
その影はすっとあの女のところへ向かっていった。
よくみたらそれはチャラチャラした服装のブ男だった。

ところでちなみに言っておくと、俺は始めからあのブスのクソ女のことなんかなんとも思ってなかったから。
眼中にさえなかったから。

ただちょっと、その、あああ、気の毒に思っただけだから。
そうならそうで別にいいのだ。

しかも、ああああああの男は「それじゃあマメで…」なんてクソつまらん話をしてたやつじゃないかあああぁぁ。

知らん。
俺には関係のないことだ。

しかしとりあえず、今は機転を利かせなければならない。
この上げかけていた手をなんとかしなければ。
これじゃあまるで、俺があのブスに勘違いして手を振り返そうとしてたみたいじゃないか。

この状況は…
そうだ、俺は始めからこの格好をすることになっていたのだ。
別にあのクソ女に手を振り返そうとしていたわけではない。
俺はそんな勘違いをするバカじゃないのだ。

「もっしもーっし!」

俺は手を耳元に掲げると、できるだけ大きな声で言った。
なぜなら俺はあのクソバカ女と一切関与することなく、独自の経緯でこのポーズをしていたわけで、現状ではそのことを周囲に知らしめる必要があったからだ。

「もっしもーっし!」

どうだ。
別にお前のことなんか、はははは、始めから眼中になかったのだ。

「もっしもーし!」

ただいかんせん肝心の電話を持っていなかったので、横を歩く人に「うお」と驚かれてしまった。
しかしそんなことも、知らん。

もっしもーっし!
あああ、知るかああぁぁぁ。


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