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箱舟



あの日のことはよく覚えている。
むしろ僕の記憶らしい記憶はあの日で途切れてしまっている。
だからあの日のことは、やけに鮮明に記憶に焼きついている。

あの日、僕は友人から「あれ」をしておくように頼まれた。
確認をとったわけではないが、彼の「あれ」といったら大方見当がついたので、僕は適当に相槌を打ってその場を離れたのだった。
まさかそれが人との最後の会話になろうとは思いもしなかったので、今はもっと多くを語っておけばよかったと後悔している。

それから僕は…
ある種の啓示を受けたのだと思う。
とにかく気がつくと僕は手に壷を持っていて、目の前の猫を睨みつけていた。
わけがわからなかった。
衝動的に壷を振り上げて猫を追いかけたのだけど、今にして思えば、あれは本能的な部分が「その時」が迫っていることを暗に告げていたのかもしれない。

きっとあれは神の啓示だったのだ。

それからすぐに、僕は閃光を感じた。
見たのではない。もっと感覚的なものだった。
そしてその閃光が過ぎ去ったあと、万物は粒子に帰った。
個は全になった。
粒子は天に輝く偽の太陽へとむかって、ふわりと上っていった。
それは不気味なほどに、美しい光景だった。

そして僕は残された。


あの日からのことは、よく覚えていない。
思い出されるのは視界一面に広がる瓦礫、絶望、孤独。

そして、廃虚と化した地球上で唯一生き残ってしまった不幸を背に、今日も僕はイヴとなるべき存在を探し歩く。


――壷を振り上げながら猫を追いまわす姿が目撃されて以来、彼の姿を見たものはいない。


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