リッチマン
悪がなければ正義は成り立たない。
やむを得ぬのでここは一つ、悪があったことにしようではないか。
ここに悪があった。
彼らは善や偽善を嫌い、脆弱なる人類を滅ぼそうと企む、まさに悪い者達なのであった。
今日も悪が町を荒らす。
暴力、盗難、強盗、殺人、痴漢、セクハラ・・・
町は怒りで溢れ、互いに呪い、罵り、殴りあう。
飛び交う奇声、悲鳴、怒号・・・狂気。
しかし案ずることは無い。悪あるところに正義はあるのだ。
彼方より如何にも正義然とした笑い声がこだまする。
「ハッハッハッハッハ」
日夜命をかけて世界を守る、正義たる正義。
彼の名はリッチマン。
「大丈夫かね。一般庶民の君たち!」
リッチマンは戦う。
悪と戦わねばならぬ。
彼の使命は一般庶民を守ることであり、また同時にそれは彼の唯一の存在意義なのだ。
彼は戦う。正義然として、あの手この手で悪を打つ。
さあさゆけゆけリッチマン。戦え我らがリッチマン。
かくして体を張り、今日も偽善たる庶民を悪の手から救ったリッチマンであるが、不思議なことに救われた「一般庶民」たちは、誰一人としてリッチマンを愛そうとせぬのであった。
完
次の話を読む