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阿呆の午後



「ところでさあ」

「おう、どうした?」

「いや、この前の話なのだけどねえ。」

「おう、なんだ。」

「やっぱりあれは鮑だと思うのだよね。」

「まだ言っとったんかお前。何度も言っとるようにあれは鰊だろ。」

「いやどう考えてもあれは鮑だよ。」

「どうかな、鮑か・・・」

「あれ?鯔だったっけな。」

「なんだ、鮑じゃなかったんか。」

「いや・・・鮑だったような・・・鯔だったような・・・どう思う?君は。」

「だから俺は最初から鰊だと言っとろうが。いや、或いは鰰だったろうか・・・」

「うぅん、どうかなあ。鮑か鯔だよ。」

「そうか、お前がそこまで言うのなら鮑か鯔のどちらかかもしれんなあ。」

「あ、思い出した。」

「お、どうした?」

「鰤だよ鰤。鮑と鯔はまず違うってんで覚えてたんだった。」

「馬鹿を言うな。鰤なはずがなかろう。鰤は有り得ない。」

「では鰊か鰰かねえ?」

「いや、すまん。お前がそこまで気に病んでいるとも知らずに、実は適当に言ったんだ。」

「そうか。いや、別にいいんだ。しかしこうなるといよいよ気になってくるねえ。」

「そうだな・・・じゃあ鱧ってのはどうだ。」

「鱧か、それはいいねえ。」

「そうか、いいか、わははは。」

「でも鱧ってのはあまりに唐突過ぎまいか。」

「そうだよな。俺も少し気になってはいたんだ。」

「鰈とか鯑ってのはどう思う?」

「そいつはどうも響きが良くないねえ。鯒の方がましだろう。」

「え?鯒かい?時計の音、鯒鯒。なんちゃって。」

「がははは!この布団、鱶鱶だよ、ってのはどうだ?」

「はっはっは!それ最高だよ!」

「がははは!そうか!面白いか!」

「僕、鱒鱒笑っちゃう、なんてね!」

「ひゃっはっはっは!よく言うぜ!お前は本当に馬鹿野郎だな、このタコ!」

「はははは!」

「がははは!」

「・・・・・・」

「・・・」

「あ!タコ!」

「なんだ?」

「鮹だよ鮹!」

「あ、そうか!鮹か!」

「そうだよ!鮹だったんだよ!」

「そうだった!確かにあれは鮹だった。」

「鮹だね鮹だね。」

「ああ鮹だ鮹だ。」

「いやあすっきりしたねえ。」

「そうだな。非常にすっきりした。」

「そっかあ、鮹だったかあ。はは・・・」

「ああ、鮹だった・・・」

「・・・・・・」

「・・・」



「ところでさあ」

「おう、どうした?」

「いや、さっきの話なのだけどねえ。」

「おう、なんだ。」

「やっぱりあれは鵈だと思うのだよね。」

「まだ言っとったんかお前。何度も言っとるようにあれは鶉だろ・・・」



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