サイレントナイト
少年はサンタクロースの存在を信じなかった。
とはいえ、はなからその存在を疑っていたわけではなく、むしろ昨年までは誰よりも強くその存在を信じていたのであった。
昨年のクリスマスでのできごとだ。
あの日、彼はサンタクロースがやってくるのを起きて待っていようと決心していた。
世界中の子どもたちを代表して、お礼を言うつもりだったのだ。
両親から「眠っていないとサンタさんは来てくれないんだよ」と言い聞かされたので、眠ったフリをして待っていた。
夜中。「起きていよう」と堅く決心した少年も、さすがに眠たくて仕方がなくなり、うつらうつらとしていた。
その時彼の部屋の扉の開く音が聞こえた。
少年ははっとした。きっとサンタクロースが来たに違いない。やっとサンタクロースに会えるのだ。
胸の高鳴りを抑えつつ、少年はゆっくりと静かに目を開いた。
しかし少年の瞳に映ったのは、彼が夢見た光景ではなかった。
やってきたのはサンタクロースではなく、プレゼントを抱えた彼の父親だったのである。
少年は心からがっかりした。
これまで信じていたものが、がたがたと音を立てて崩れ去ってしまったような気がした。
枕元にプレゼントを置く父親の姿は、少年がサンタクロースの存在を否定するのに充分な事実を物語っていたのだ。
その日以来、少年はサンタクロースを信じなくなってしまった。
しかし少年は、彼があの日見たことを他の誰にも明かさなかった。
そうすることで、友達の夢を、そして両親の優しさを傷つけてしまうのだと考えていたからだ。
少年は他人のことを思いやれる、本当に心優しい子どもだったのだ。
眠りにおちた少年の枕もとにプレゼントを置くと、父親は少年に優しくキスをした。
「心優しい僕の坊や。行ってくるよ」
彼は真っ赤なコートを羽織ると、トナカイのそりに乗って冬の夜空へと飛び立っていった。
メリークリスマス
次の話を読む