
言葉
人類は言葉を持たなかった。
当時、他者とのコミュニケイションは身振り手振りで行われた。
この母子も例外ではない。
食料は狩猟が主で、誰にも頼らず自力で手に入れなければならなかった。
しかし不幸なことに母は足が悪く、子どもを養えるほどの食料を手に入れることが出来なかった。
当時は、言葉もなければ、違う血を救うなどという概念もない。
そのため、彼らを助けてくれるものなどいるはずもなかった。
そのわずかな食料でも、成人となった彼女はまだ生き延びることができた。
しかし子どもはそうではなかった。
やがてその時がきた。
やつれきった子どもの体は冷たく、硬く横たわっていた。
もう二度と目を開けることは無い。
彼女はそのことを心のどこかで悟った。
そして叫んだ。
悲しみに飲み込まれながら叫んだのだ。
きぃぎっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
その姿を見た周りの者は思った。
彼女は息子の死を悲しみ、耐え切れずに叫んでいるのだと。
言葉のない時代に、口から出た音声で初めて意味が伝わったのだ。
これが人類最初の「言葉」となった。
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